ただ毎日を生きるだけじゃなくて、賢さが必要だと思うんだ

2025/11/01
 
 
朝、いつもの時間に鳴るアラームを止めて、ぼんやりとした頭でスマホを手に取る。SNSをひらけば、キラキラした誰かの日常がタイムラインを流れていく。丁寧に入れられたコーヒー、朝ヨガで整える身体、仕事での大きな成功。それに比べて私の毎日は、なんてことないルーティンワークの繰り返し。
 
 満員電車に揺られて会社に行き、昨日とあまり変わらないデスクワークをこなす。ランチはコンビニで買ったおにぎりを急いで頬張り、午後の業務を乗り切る。帰り道、スーパーで少しだけ安くなったお惣菜をカゴに入れて、疲れた足を引きずって家に帰る。
 
 「ただ、生きているだけ」
 
 ふと、そんな言葉が胸に落ちてきた。
 
 もちろん、ご飯を食べられること、安心して眠れる家があること、働ける場所があること。それだけで十分に幸せなことだって頭ではわかってる。でも、心のどこかで「本当にこれでいいのかな?」って、小さな私が問いかけてくるんだ。
 
 毎日をやり過ごすのに必死で、目の前のタスクをこなすだけで精一杯。そんな日々の中で、私たちは何を失って、何を得ているんだろう。
 
 ◇
 
 ある日、会社の先輩とランチに行った時のこと。いつも穏やかで、どんなに忙しくても自分のペースを崩さない彼女に、私はずっと憧れていた。
 
 「〇〇さんって、いつも余裕があって素敵ですよね。私なんて、毎日バタバタで…」
 
 思わず本音をこぼすと、彼女はふふっと笑ってこう言った。
 
 「私も昔はそうだったよ。でもね、ある時から『ただ生きる』んじゃなくて、『賢く生きる』ことを意識し始めたの」
 
 「賢く、生きる…?」
 
 「そう。例えば、時間の使い方一つとってもそう。 忙しいからって全部を全力でやろうとすると、本当に大切なことを見失っちゃう。だから、自分にとって何が一番大切なのか、優先順位をつけるようにしてるの」
 
 彼女の話は、目から鱗だった。私はこれまで、全部を完璧にこなそうとして、結果的にすべてが中途半端になっていたのかもしれない。仕事も、プライベートも、「やらなきゃいけないこと」に追われて、「やりたいこと」はいつも後回し。
 
 「それにね」と彼女は続けた。「日常の中に、小さな学びを見つけるのも大事だよ。 例えば、仕事で失敗しちゃった時も、『最悪だ』で終わらせるんじゃなくて、『どうして失敗したんだろう?』『次はどうすればうまくいくかな?』って考える。そうすると、失敗もただのマイナスじゃなくて、未来の自分への投資になるでしょ?」
 
 彼女の言葉は、私の心にじんわりと染み渡った。
 
 ◇
 
 賢く生きるって、特別な才能や知識が必要なことだと思っていた。でも、そうじゃないのかもしれない。
 
 それは、自分の時間や心を大切にすること。
 
 それは、日常の些細な出来事から何かを学び取ろうとする姿勢。
 
 それは、他人と比べるのではなく、自分の心の声に耳を傾けること。
 
 次の日から、私は少しだけ意識を変えてみることにした。
 
 まずは、朝の時間の使い方。いつもギリギリまで寝ていたのを15分だけ早く起きて、丁寧にコーヒーを淹れてみた。時間に追われるのではなく、自分で時間を作っていく感覚。それだけで、一日の始まりが少しだけ豊かになった気がした。
 
 仕事では、To Doリストを作るだけでなく、それぞれに優先順位をつけてみた。 「今日絶対に終わらせること」と「明日でもいいこと」を分ける。たったそれだけで、気持ちに余裕が生まれて、一つひとつの仕事に集中できるようになった。
 
 帰り道、いつもはスマホを見ながら歩いていたけど、顔を上げて季節の匂いを感じてみた。金木犀の甘い香り、夕焼けのグラデーション。今まで見過ごしていた小さな発見が、心をふわりと軽くしてくれた。
 
 もちろん、すぐに何かが劇的に変わったわけじゃない。相変わらず仕事で失敗することもあるし、人間関係で落ち込む日だってある。
 
 でも、以前と違うのは、そんな出来事も「学び」として捉えられるようになったこと。 失敗した時は「次はこうしてみよう」と対策を考え、モヤモヤした時は「私は何でこんなに悲しいんだろう?」と自分の心と向き合う。
 
 そうやって、一つひとつ自分の経験を「知恵」に変えていく。その積み重ねが、きっと「賢さ」に繋がっていくんだと思う。賢く暮らすということ。
 
 ただ毎日を生きるだけなら、私たちはきっと、流されるままに歳を重ねていくだけ。でも、そこにほんの少しの「賢さ」というスパイスを加えるだけで、人生はもっと味わい深くなる。
 
 誰かのキラキラした日常を羨むんじゃなくて、私自身の日常に、私だけの輝きを見つけていきたい。
 
 それは、大きな成功や特別な出来事じゃなくていい。
 
 朝のコーヒーの香り。
 仕事で感じた小さな達成感。
 帰り道に見つけた季節のうつろい。
 
 そんな、ささやかだけど確かな幸せを、きちんと自分で見つけられる「賢さ」を、私は育てていきたい。
 
 ただ生きるだけじゃ、もったいないから。
 
 私は、私の人生を、もっと賢く、もっと豊かに、味わい尽くしたいんだ。