「東京ルール」をご存じですか?
今後はリフォーム費用もオーナーの負担です。


 新聞やテレビなどマスコミで何度も紹介されたので、すでにご存じの方も多いでしょう。平成16年10月から、東京都では敷金返還トラブルを防ぐ目的で「賃貸住宅紛争防止条例(通称、東京ルール)が施行されました。これは、退去時の敷金返還に関する説明責任をアパートオーナーの側に義務づけたもので、つまりは入居者の故意や過失で部屋を傷つけた場合のほかは、原状回復や設備の取り替え費用はすべてオーナーが負担するというものです。もちろん、これは東京に限った話ではなく、全国的なスタンダードとなることが予想されます。
 これ以外にも、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(平成23年改訂)でも「入居者ではなくオーナー負担」という方針ははっきり示されていて、それに準じた判例も次々とあらわれています。 

 また、アパートが圧倒的な借り手市場となる中で、そもそも従来のように高額の敷金・礼金を設定していては入居者が集まらないという現実もあります。そう考えると、オーナーをとりまく経営環境は今後ますます厳しくなると考えられます。

 アパート経営の現状を考えても、これらリフォーム費用をすべて負担していては、ほとんどのアパートが実質赤字に転落するのではないでしょうか。つまり、これまで想定していた「家賃収入が毎月これだけで、経費がこれだけで、利益がこれだけで……」という収支計画がもう通用しない時代なのです。おそらく今後、従来と同じ収支計算で運営してきたアパートは続々と限界を迎え、確実に立ち行かなくなると予想されます。


 

少額訴訟の上限が60万円に。
トラブルが裁判になる可能性が高まりました。


 アパートオーナーと入居者の間で敷金トラブルなどがおきた時に、入居者からの「駆けこみ寺」となってきたのが少額訴訟制度です。簡単な手続きと低費用でスピーディな裁判が受けられる少額訴訟は、もともと訴額上限30万円でした。しかし、敷金トラブルに関しては、少額訴訟に持ちこまれないようにオーナー側の業者がわざと30万円超の金額で費用請求するケースがよくありました。例えば、リフォーム費用を32万円で請求すれば、手続きが面倒で費用もかかる通常の裁判までおこす入居者はいないだろうというわけです。

 ところが、平成16年4月から、少額訴訟の上限が60万円に引き上げられたのです。さすがに、退去時のリフォーム費用で60万円以上の請求とはいきません。これで、入居者の立場からいえば、敷金の返還額などに不満を感じるケースのほとんどで少額訴訟に持ちこめることになったわけです。また、判例を見ても、オーナーの側がしっかり証拠を用意しないと、入居者に有利な判断が下される場合が多いようです。さらに、入居者が安易な気持ちで訴訟をおこすこともないとはいえず、今後もアパート経営にとって頭の痛いところとなりそうです。



 

リフォームや修繕の費用について、
「30年家賃保証」は力になってくれません。


 退去時のリフォーム費用がオーナー負担となる場合、「30年家賃保証」「一括借上げ」は何をしてくれるのでしょうか。あるいは、もっと日常的な建物のメンテナンスや定期修繕についてはどうでしょうか。答えは「何もしてくれない」です。
 第1章でもお話しましたが、家賃保証とはあくまでも「家賃についてのみ」の保証であり、また一括借上げという言葉とは裏腹に「建物の修繕費などは一括という中に含まない」のです。
 それどころか、契約内容によっては敷金・礼金などもすべて保証会社の預かりとされる場合もあるほどです。もちろん、これらの資金は退去時のリフォーム費用にあてられるはずです。しかし、現実には、保証会社がリフォーム費用を支払うのはごく一部の内容についてで、そのほか大部分の費用はオーナーの家賃収入から負担することになるのです。また、日頃のメンテナンスや定期修繕も事情はまったく同じで、家賃収入からのオーナー負担が重くのしかかってきます。
 以上のような状況をふまえ、オーナーの中にも「このままではいけない」と危機を感じる方が増えてきています。しかし、具体的にどうすればいいかとなると、なかなか妙案は見つからないのが現状ではないでしょうか。特にアパートの収支構造は、アパートの運営収支(空室・リフォーム費・管理費など)の他に税金の支払いがあり、全体収支の理解がとても分かりにくい構造となっており、築10年を超えるアパートでは空室、それに伴う家賃引き下げ要求、リフォーム費用負担増、そして実際にかかる税金をしっかり積算すると赤字になっていてもおかしくはありまん。結果、長期家賃保証をうたう大手建設会社にオーナーの集団訴訟という事件が世間をにぎわす様になったのです。