母さん、僕がこんなに眠いのに、どうしてもっと勉強しろって言うのさ。
そりゃ、僕だって、母さんが言いたいことは分かるよ。
兄弟では男が僕だけだから
えみこも、さちこも、いずれ大きくなったら結婚して
この家を出て行くんだろ?
そんなことくらい、小学5年にもなれば理解できるさ。
でも、僕だって、普通のサラリーマンの親の子供の友達みたいに
学校が終わったら、ドッジボールで遊んだり
塾へ行って、もっと勉強したりしたいと思ったことは
一度や二度じゃなくて、三度くらいあるよ。
「三度の飯より、何とかが好き」っていうだろ?
僕も、じいちゃんが作ってくれた
後楽のラーメンを食べながら、ジャイアンツ戦を観て
サイダーを飲んでいる時が、一番幸せなんだよ。
今時の小学生は、そんなもんで嬉しいんだよ。
でもさ、後楽の跡取りに生まれたからには
そんな当たり前のことが許されないことは
ちょっと前から気が付いていたよ。
えみこが学校でイジメられて泣いてきたことがあったろ?
えみこに聞いたんだよ。
「学校でイジメられて泣いてるのか?」って。
そうしたら、えみこの奴
「お前のお兄ちゃんは、小学生なのに、手に職があっていいな!」
って、言われたらしいんだよ。
それを言われたえみこは
「お兄ちゃんは、勉強もクラスで一番なんだよ!」