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2021/06/01

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多忙な生活を送る読者の皆さんは、
「ああ、なんだか脳が疲れているな」と感じている人は
少なくないのでは。

在宅勤務や外出自粛でそんなに体を動かしていないのに、家に帰ったらぐったり、仕事が終わったらぐったり……
なんて人もいるのではないだろうか。  

脳は、言語・思考・記憶・情動など、
さまざまな脳独自の機能を果たすと同時に、
各臓器や筋肉に指令を出して体を円滑に働かせている。

脳は、自分自身の仕事もこなしながら
体全体の機能を統率する
プレイングマネージャーのようなものである。

自分の体のパフォーマンスを上げるために
日々忙しく働き、疲れ切ったこのプレイングマネージャーを、私たちは
どうしたら癒やしてあげられるのだろうか?
 

●脳疲労の原因「マルチタスク」  
脳疲労の大きな原因として考えられるのが、
マルチタスクだ。  
ギクッとした人もいるだろう。

なぜなら、毎日
「あれしなきゃ……」「これも忘れないように……」と、やることリストに追われている人は、少なくないから。

この、「あれもこれも状態」が、
いわゆるマルチタスク状態だ。
マルチタスクは私たちの脳に大きな負担をかけている。

さまざまな研究でも、マルチタスクによって
私たちの脳にいくつかの変化が起こることが分かっている。

 

「いつでもメール確認」は幸福感ダウン

 例えば、ブリティッシュコロンビア大学の実験(※1)では、

マルチタスクの原因になるメールチェックを
一日3回に制限したところ、日々の緊張やストレスが和らぎ、幸福感が向上。

一方、制限なくメールチェックをしたところ、
ストレスが急増し、生産性も下がってしまったという。

 



また、サセックス大学の研究(※2)では、
頻繁にパソコンやタブレットなど複数のデバイスを操作して調べ物をする (例えば、動画を観ながらインターネットで調べ物をする、など)被験者は、脳の灰白質という部分の密度が低いことが分かった。

灰白質とは、脳の認知機能や感情コントロールを担う部分で、ここの密度が低いと集中力の低下やうつや不安感など精神的な問題を招く可能性が高まる部分だ。

(※2)Kep Kee Loh et al(2014)Higher Media Multi-Tasking Activity is Associated with smaller Gray-Matter Density in the Anterior Cingulate Cortex.  では、「あれもこれも」状態にならないために、何ができるのか。それは、マルチタスクを、シングルタスクの集合体として、とにかく一つずつ片付けることだ。


●脳を守る「シングルタスク化」  人間の脳は、そもそも、一度に複数のことをこなすことができないようになっているといわれている。そのため、一つひとつ仕事を終わらせてから次の仕事に進めるのが、一番効率がいい。「そんなこと、分かっているよ!」と思うが、これが意外に難しい……。

両手いっぱいにタスクを抱えがちな人

 「一つの仕事だけに集中すればいい」なんて人は、いないだろう。次々に仕事は振ってくるし、資料作成の作業中、ポップアップが立ち上がり、入ってきたばかりのメールを読んで返信メールを打ち始めてしまう。メール処理をしているときにアイデアが浮かび、そのアイデアをかたちにする作業に手を付けてしまう。同時並行でプロジェクトを進めていたり、在宅で家事をしながら仕事をしていたり……。毎日、両手いっぱいにタスクを抱えて過ごしているはず。  できれば、この時間はメールを触らない、この時間はチャットを見ない、など、ルールを決めて、できるだけ一つのことに集中する環境をつくりたいのだけれど……。

●一つのことに集中する力を育てるトレーニング  とはいえ、いざ一つのことに集中しようとしても、つい気になってしまうのが人間というもの。どうしても気が散ってしまう人は、一度、マインドフルネスを活用してみてはどうだろう。  マインドフルネスとは「マインドフル」な状態を示す言葉で、マインドフルとは簡単に言うと「今、目の前のことに注意を向けている状態」のこと。呼吸や体の感覚、今、五感で感じていることや目の前に集中したいことなどに、注意を向けている状態である。  マルチタスク脳は、このマインドフルな集中状態が失われている状態だ。そうなると、自分が向けたい意識があっちこっちに向いてしまい、それに伴って感情も振り回されてしまう。きのうの出来事を思い出しては落ち込んでしまったり、将来の不安などでモヤモヤしてしまったり。「今、ここ」のこと以外にどんどん頭がトリップし、簡単には片付けられない感情まで抱え込んでしまうのだ。

手軽なマインドフルネスは「呼吸だけ」

 次々に入ってくる情報やタスクの荒波、コントロールしづらい感情に耐えうる強くてしなやかな脳をつくるために、今回は、誰でも手軽にできるマインドフルネスの基本トレーニングを紹介したい。そのトレーニングとは、「呼吸にだけ、注意を向ける」こと。



(1)楽な姿勢で座る  

まず、姿勢。
椅子に腰掛ける、または床であぐらを組み、
その状態で、10分程度、座っていられるように、関節や筋肉に痛みや不快感がない座り方を自分で調整しよう。

最初は問題がなくても同じ姿勢をキープしていると
違和感が出てくる場合がある。
その場合は途中で座り直してよいので、
楽な姿勢に調整しよう。

(2)自分の呼吸に意識を向ける
姿勢が定まったら、呼吸に意識を向けていく。
空気の通り道は、鼻でも口でもOKだが、
どちらかというと鼻呼吸がおススメ。
無理に「正しく呼吸しよう」と頑張らなくてOK!


(3)呼吸の流れを確認する  鼻や口から空気が入り、
呼吸している体の状態を確認する。
吸う息でおなかや胸が膨らみ、
吐く息でおなかや胸がへこむ。

それを感じ取ろう。
ここでも無理に「吸って」「吐いて」を頑張らず
ただ、今の自分の自然な呼吸を見守るようなイメージで
呼吸に意識を向けよう。

(4)意識がそれたら、呼吸に注意を引き戻す
(3)の状態ができたら、ただただ、呼吸に意識を向け続ける。これを、10分続ける。  

とてもシンプルだが、やってみると難しいはず。
マルチタスクに慣れた私たちの体は、
一つのことに注意を向け続けることが苦手になっているから。

でも、大丈夫。続けていれば
徐々に呼吸に注意を引きとどめておくことが
できるようになる。

そしてこれを続けることが、
集中力を鍛える訓練にもなるといわれている。
ただ、座って呼吸に気づく。

道具もいらない。
どこでも誰でもできるので、まずは一日10分、
3週間続けてほしい。  

朝でも夜でも、自分にとってやりやすい時間帯でOK。
地味なトレーニングだが、続けるうちに、
マルチタスクによる脳の疲れが軽減でき、
スッキリしている状態に気づくだろう。 
文/松尾伊津香 写真/PIXTA
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