豚舎を安く作るには

 読者様から「豚舎を安く建築するコツ」について質問がありましたので、今月はこのテーマについてアイディアをいくつかご紹介します。
 まず前提となる条件を整理しておきます。ただ単に安く作っても、実際に豚を飼ったときにランニングコストが多くかかったり、労力が多くかかったのでは困ります。ですから、建築コストとランニングコスト&労力のバランスを考慮した上で設計する事からスタートします。これには、施主側もある程度勉強しておかないといけません。


【ウインドレスかカーテンか】
 一般的にウインドレスの方が建築コストも高く、ランコスも電気代が多くかかります。しかし、暖房費は少なくて済みます。また、温度環境コントロールがしやすいので、事故率の低減やD.G.や飼料要求率で有利ですので、利益に貢献します。また、防疫の面ではウインドレスが断然有利です。
 出入口を2重にして靴の交換スペースにすれば、小動物の侵入も防げますから、豚舎外からの病原菌持ち込みを少なくできます。このように管理方法を工夫すれば、使用する薬剤も減らせますので、肉豚の生産コスト全体を計算すれば、ウインドレス豚舎の方が有利と私は考えます。
 カーテン豚舎では、防鳥ネットを張ってもハエや蚊は入ってきますし、ネットが破損したことに気づかなければ野鳥や小動物も入ってきます。ウインドレス豚舎ではハエもネズミも居ない豚舎を実現できます。その中では豚も快適ですし、人も快適に仕事が出来ます

 【糞尿分離か混合か】
 ピットの構造を糞尿分離にするか混合にするかでも建築コストは変わります。混合の方が当然安く出来ます。また、メンテナンスも分離方式ではスクレーパーや、スクリューコンベアのメンテナンスに部品代や点検の労力がかかりますが、糞尿混合ピットでは豚舎内のメンテナンス費用はほとんどかかりません。しかし、汚水処理には糞尿混合の方がコストが多くかかります。
 高分子凝集剤を使った脱水設備が必要になるためです。豚舎の敷地に高低差がある場合には、糞尿混合のほうが汚水配管が詰まりにくく出来るので有利です。糞尿分離では取り出した糞をバケットローダーなどでコンポまで運搬する必要がありますので、この労力も含めて、私が以前コスト比較を計算したことがあります。
 20年間の設備コストとランニングコストを合計すると、糞尿分離でも混合でもコスト差はほとんどありませんでした。糞尿混合豚舎は冬に湿度を確保する事では有利になりますが、換気を疎かにすると臭気が濃くなって健康を害しますので、注意が必要です

 
図3がダブルストック豚舎のレイアウト例です。1棟2室構成で、3週に1回離乳子豚を導入しますが、離乳から数週間は1室をさらに半分に区切って離乳豚を1室に2グループ収容するわけです。その時は反対側のもう1室には出荷が始まったばかりの肉豚が残っていて、それが出終わったら洗浄して、1グループ分の仔豚を移動するのです。
この方式ですと表1のように、豚舎の建築費はダブルストックの方が安くなります。但し、この建築費は豚舎の仕様や建築業者に依って若干の変動がありますので、あくまでも目安として下さい。

【一括発注か部分発注か】


 実際に豚舎を建設する場合は、大きく分けて養豚建築業者へ一括発注する方法と、部分発注の方法があります。部分発注とは、内部設備は養豚設備業者から購入して、
 基礎は土木業者、本体建築は大工さん、電気工事は電気屋さん、設備工事は設備屋さんからそれぞれ見積もりを取って個別に発注する方法です。この方法のほうが安く上がる場合が多いですが、施主自身が現場監督をしなければなりません。ですから、地元で安くやってくれる業者さんとのツテがあるかどうかや、ある程度建築の知識も必要です。
 実際私のクライアントさんで600頭収容のウインドレス・全面スノコ肥育豚舎を部分発注した方の例を挙げると、業者一括の場合約5,500万円かかるところを約4,500万円で出来ました。ただし、畜産クラスター事業などの国の補助を使う場合は、必ず一括請負発注にしなければなりません。このことを知らずに個別に見積を取ってからクラスターに申請しようとすると予算オーバーになってしまいますから注意して下さい。

【種豚の能力の違いによる建築コスト差】
補助事業を使って繁殖から肥育まで全て新築する場合は、ハイヘルスな高繁殖能力種豚に入れ替えることをお薦めします。例えば母豚400頭で1母豚当り年間出荷22頭、離乳後事故率6%、平均出荷日令180日の場合と、1母豚当り年間出荷26頭、離乳後事故率3%、平均出荷日令160日の場合を比較して見ましょう。
 前者の場合1週間の離乳頭数は180頭で、離乳舎と肥育舎の合計収容頭数は4,500頭分必要です。
 後者の方は1週間の離乳頭数は206頭で、離乳舎と肥育舎の合計収容頭数は4,532頭分必要です。
両方とも豚舎の建築工事費はほぼ同じです。これを建物や施設の法定耐用年数平均17年で計算してみましょう。
前者は年間8,800頭×17年で149,600頭。
後者は同様に年間10,400×17176,800頭。
農場全体の建築コストは1母豚当り200250万円です。中間を取ると母豚400頭農場は9億円です。これを先ほどの総出荷頭数で割ってみましょう。
前者は6,016円、後者は5,090円です。さらにハイヘルス豚は飼料要求率も良いし、薬剤費も少なくて済みます。

【終わりに】
養豚家が目指すべきものは見かけの豚舎建築費ではありません。最終的に肉豚1頭当りの生産コスト低減です。豚舎の仕様によって、光熱費や労務費も変わってきます。経費項目で言うなら減価償却費、光熱費、診療衛生費、飼育労務費、購入飼料費に影響します。ここをよく見極めて、「安物買いの銭失い」に陥らないように良く検討しましょう。誰でも初期投資コストは低く抑えたいものです。
 しかし、私のお薦めは建てた後のランニングコストが安くなる設備投資をすることです。借入が多くなることを気する方が多いですが、相場が安くなって返済がきつくなった時は返済計画の見直しが出来ます。しかし、ランニングコストは簡単に減らせないものです。