畜舎の建築基準緩和と建築コストへの影響


「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律」が令和3年5月19日に公布されました。この法律によって、豚舎建築の基準が緩和されました。では、実際に豚舎を作る場合に養豚農家にとってどんなメリットがあるのかを、分かりやすくお伝えします。
 まず最初に、この法律を理解する上で分かりやすい解説が農水省のホームページに掲載されましたのでご覧下さい。Google等の検索サイトで「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律」と入力して検索して下さい。すると農水省の該当ページが一番目に表示されるはずです。そのページの本文7行の下に『関連資料』とあります。関連資料の最初に出ている、「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律」に関する農業者との意見交換会の開催について(令和3年8月3日追記)の資料PDFをダウンロードして下さい。これを見ながら今回の私の解説を読んで頂けると理解しやすいでしょう。
 まずこの法律のメリットを受けられる場所は、都市計画法上の市街化区域・用途地域ではないことです。田舎の方であれば大抵これに該当します。市町村役場の都市計画課に行って聞けば教えてもらえます。また、ネットでも調べることも出来ます。検索サイトで「用途地域マップ」と入力して検索するとトップに出てきます。このサイトの一番上のメニュー行から「用途地域」をクリックして県名→市町村名をクリックすると表示されます。ここで何も色付けされていない場所が建築基準の緩和される対象地域です。
 メリットを簡単に言うと、面積が3,000㎡以下で、平屋の畜舎または堆肥舎は木造でも鉄骨でも建築確認が不要になります。その代わりに畜舎建築利用計画を作成して都道府県知事の認定を受けなければいけませんが、建築基準法による建築確認手続きよりも簡単になる見込みです(参考資料の2~5ページ目)。
 さて次は読者の皆さんが一番気になるコスト削減効果です。農水省の参考資料の9頁に出ていますが、まず第1は柱や梁の強度設計が3割ほど緩和されたことにより、使用する木材又は鉄骨の材料費が3割ほど安くなることです。今年に入ってから輸入木材の値上がりが顕著で、50%近くアップしているという情報もあります。実際私のお客様の見積では、昨年に比べて約17%アップしました(豚舎工事費全体で計算)。その大部分が木材単価のアップですから、この基準緩和によるコストダウンは来年度からの工事を予定している農場にとっては朗報です。
 もう一つ大きなコストダウンは「膜構造畜舎等」が認められたことです。今までは国の補助事業で豚舎を建てる場合は「膜構造畜舎等」いわゆるハウス豚舎が認められませんでした。オガコ踏込み式の肥育豚舎を建てる場合は、同規模のウインドレス全面スノコ肥育豚舎に比べて、約半額で建てることが出来ます。しかし、ここで注意しなければならないのは、所詮ハウス豚舎は寿命が短いですし、飼料要求率(FC)や日増体量(DG)が劣ります。浄化槽排水の放流が出来ない地域を除いては、ウインドレス全面スノコ肥育豚舎のほうがお薦めです。そのほうが省力化出来ますし、高度な衛生管理も出来ますから。せっかく1/2補助が出るのだったら効率が良く長持ちする豚舎を作る方が得策だと私は思います。堆肥舎については「膜構造等」にする方が良いでしょう。

次に防火に係る通路の取扱が緩和されたことによるメリットです。今までは木造平屋で500㎡未満は建築確認不要でしたが、豚舎と豚舎を通路で繋ぐと、一体の建物としてみなされて、建築確認が必要になってしまいます(図1)。また、通路で繋いだ建物の合計面積が3,000㎡を超えると、建物を耐火構造にするか、防火区画を設ける必要がありました(図2)。 
また、既存豚舎の間隔が狭く建てられていた農場内で建替えする場合もメリットがあります。例えば幅9m、高さ4mの豚舎であれば、豚舎間隔も4mで良い訳です。今までは6m空けなければならなかったので、敷地が狭い農場では今までと同じ収容頭数を確保出来なくて、建替えを諦めていたケースもありました。