対策教室

領域Ⅱ:介護

5⃣ コミュニケーション技術

コミュニケーションの基本


コミュニケーションの基本

 情報の伝達は、コミュニケーションの基本的な機能である

 コミュニケーションには、①情報の伝達、②双方の意思の交流、③人と人とのつながりを生む、④エンパワメントを促すという4点の役割がある。
※エンパワメント(empowermen)とは能力開花や権限付与の意味。
 一般的には、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになることであると定義される。
 エンパワメントの考え方は昨今大きな広がりを見せ、保健医療福祉、教育、企業などでも用いられている。広義のエンパワメント(湧活)とは、人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させることと定義される。

 コミュニケーションは、双方のやりとりであることが重要である

 コミュニケーションは、一方的な情報伝達ではなく、双方向のやり取りであることが重要である。利用者が発した言葉を介護従事者がしっかりと受け止め、介護従事者としての考えを言葉や態度で利用者に返すという「言葉や意志のキャッチボール」をすることで、利用者と介護従事者の信頼関係が築かれていく。

 円滑にコミュニケーションを図るためには、信頼関係(ラポール)を築くことが大切である。

 利用者を支援するためには、利用者とよいコミュニケーションを取り、利用者を理解することが欠かせない。そのためには利用者との間に信頼関係(ラポール)を築く必要があり、その土台となるのは利用者の介護福祉職に対する安心感である。利用者の訴えを傾聴し、十分なコミュニケーションを図ることで利用者のニーズを把握することができる。

 介護福祉職は、利用者の非言語的コミュニケーションにも注目する

 利用者の理解のためには、非言語コミュニケーションが重要となる。利用者のしぐさや表情、まなざし、語調などの非言語的コミュニケーションを観察することによって、利用者の心の声を聞き取る努力をすることが大切である。

 イーガンは、利用者への関心を表す態度を「SOLER」としてまとめた

 イーガンの5つの基本動作(SOLER)
 

 共感を基礎として、相手の意見を明確にし、言い換え焦点化要約をする

 会話を1つの方向へまとめるための主な技法として、明確化言い換え焦点要約がある。これらの技法によって、話が整理され、利用者の考えや疑問が明らかになる。そのうえで利用者や家族が問題に直面して自分の問題としてどうするべきか取り組めるように促す。
 こうした働きかけの結果として、利用者や家族の
同意が得られるだけでなく、介護福祉職が伝えたいことを理解してもらうことができる。

 

 援助関係は、バイステックの7原則を心がける

 バイステックの7原則とは、援助関係における最も基本的な原則である。
 

 介護福祉職は、利用者の言語的コミュニケーションだけでなく、非言語的コミュニケーションにも注目する。


 介護福祉職は、利用者の声の調子、顔の表情、体の動き等の非言語的コミュニケーションを観察することで、利用者の心の声を聞き取る努力をする。

 援助者は専門家として、利用者に問題の解決指導することが望ましい。

×
 バイステックの7原則にもあるように決定するのは利用者本人であり、援助者は自己決定の支援をおこなう。


コミュニケーションの技法の活用

 尋問の様な質問をしない

 利用者から必要な情報を性急に聞き出そうとすると、クローズド・クエスチョン閉じられた質問)ばかりの尋問のような問いかけになりがちである。それでは、利用者が心を閉ざしてしまうので注意する。また、「なぜ」の質問を多用すると利用者に非難されていると思わせてしまう恐れがあるので、あわせて注意する。

 話し方に障害がある利用者の場合も、じっくり話を聴く

 利用者が言語障害などのために話がたどたどしいような場合でも、先回りせずに、理解しようとじっくりと話を聴くことが大切である。それが利用者の自尊心を尊重することになり、介護福祉職への信頼につながる。また、利用者にとって、格好のリハビリテーションにもなる。

 視覚障害のある利用者とは、聴覚機能や触覚機能を活用してコミュニケーションを図る

 利用者の視覚機能に障害がある場合は、目だけでは十分に得られない情報を、音声情報触覚で補う。
 状況を
クロックポジションで説明したり、視覚障害者用拡大読書器や点字の使用で文字情報を提供するとよい。
 言語的コミュニケーションは取れるが、非言語的コミュニケーションは十分取れないため、介護福祉職は言語によって表現できるよう留意する。
 点字器、点字ディスプレイ、点字図書はなどは、
日常生活用具の給付対象品目となっている。ただし、点字の習得は容易ではないため、中途障害者支援には点字が有効でないこともある。

●日常生活用具の給付対象品目
・点字ディスプレイ
・点字器
・点字タイプライター
・視覚障害者用ポータブルレコーダー
・視覚障害者用活字文字読み上げ装置
・視覚障害者用拡大読書器
・盲人用時計
・視覚障害者用ワードプロセッサー(共同利用)
・点字図書

 中途失聴者では、手話によるコミュニケーションは難しいことが多い

 手話を習得するには、相当な訓練が必要で、中途失聴者が使いこなすのは困難なことがある。
 その場合は、一度習熟している文字を用いたコミュニケーションである
筆談要約筆記を用いたほうが、正確なコミュニケーションを取りやすい。

 中途失聴者でも、簡単な読話はできるようになる

 読話(どくわ)は、話している相手の口の動きや表情から話を読み取るもので、読み取れるようになるまでには訓練が必要であり、またすべてを読み取れるものではない。
 しかし、中途失聴者でも、訓練すれば簡単な
読話はできるようになる。

 高齢者者の難聴の兆候の1つに、耳鳴りを訴えるということがある

 高齢者の難聴の兆候には、聴いているテレビの音が大きくなる、後ろから声をかけても振り返らない、会話でつじつまの合わないことを言う、耳鳴りを訴えるなどがある。

 失語症の種類に合わせ、コミュニケーション方法を工夫する

 ●失語症の種類

 構音障害では、筆談食道発声法人工咽頭などが有効である

 言語機能障害には、構音障害失語症がある。脳血管疾患の後遺症で発音に重度の運動障害性構音障害がある場合には、五十音表を使用することがある。失語症は、脳血管障害などにより言語中枢が損傷を受けるものであり、一度獲得した言語が思い出せない状態で五十音表から文字を選ぶことは苦痛なものとなり有効ではない。
※構音障害…舌や口唇の麻痺により、話しにくい状態。
※失語症… 麻痺が原因ではなく、言葉を思い出すのが難しい状態。

 重度の失語症の利用者には、「はい」「いいえ」で答える質問をするとよい

 失語症の利用者とのコミュニケーションのためには、わかりやすい言葉を用いる。ゆっくりと話すなどの工夫が必要である。
 また、オープン・クエスチョンよりも
クローズド・クエスチョンを用い、簡単な言葉で答えられる質問にするほうが有効である。また非言語的なメッセージも重要である。

 視覚機能に障害がある場合は、音声情報や触覚で得られる情報で補う。


 クロックポジションや視覚障害者用拡大読書器、点字等を使用するとよい。

 中途失聴者とコミュニケーションを図る際は、手話の活用が最も有効である。

×
 中途失聴者の場合、手話を習得しているとは限らないため、最も有効であるとは言えない。


記録・報告・会議

 記録の保管は、利用者のプライバシーの保護を心がける

 個人情報を保護することは非常に重要である。介護記録には、利用者のプライバシーに関わる情報が多く記載されているので、管理には十分に注意を払い、関係者以外が持ち出すことのないようにする。なお、介護記録を記入する際は、通常、ボールペンを用い、記録は、介護の完結かの日から2年間保存する。

 報告は、相手がしっかりと把握できるように客観的な事実を正確に伝える

 報告は、「誰が、いつ、どこで、何があった」とおいう客観的な事実を正確かつ簡潔に伝える必要がある。
 報告する際に、自分の考えや推測などを交えてしまうと、報告する相手がその状況などを十分に把握することはできない。自分の考えや推測を伝える必要がある場合には、報告内容と区別する。

 記録の内容は、時間場所行為者原因状態などを記す

 複数の介護従事者によるサービス提供には、すべての介護従事者がチームとして共通認識を持つことが必要なので、記録の共有が役立つ。記録内容は、事実をありのままに記載することが大切である。
 客観的で冷静な態度で、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どうした」の
5W1Hを踏まえて記録する。
 主観的な書き方では他の関係者に理解できないので避けるべきである。文体としては、叙述体、逐語体、要約体、説明体がある。

 
叙述体過程を時間的順序にそってありのままに記述
※逐語体会話をありのままに再現する
※説明体過程に対してのワーカーの解釈や見解を説明するための文体
※要約体とは事実やその背景の要点をワーカーの考察を通じ整理し記述

 

 ケアカンファレスは、利用者の生活の質(QOL)向上の課題解決を進める専門職の会議である

 ケアカンファレスサービス担当者会議は、ケアプランや個別サービス計画の実施結果を評価し、今後に向けて計画の修正や立案の情報を共有する場である。より良い介護の方法やかかわり方など利用者の意思や希望を踏まえて問題解決に向けて話し合う場でもある。専門職の役割を明確にし、議事録を作成する。

 失語症の場合は、五十音表を用いてコミュニケーションを図ると有効である

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 五十音表を用いてコミュニケーションを図ると有効なのは、構音障害の場合である。