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領域Ⅳ:医療的ケア


医療的ケアとは

 医行為は、原則として医師が業務として行う

 医行為とは、「医師が医学的判断技術をもって行うのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為」と定義することができる。
 
喀痰吸引経管栄養も、原則として医行為の範囲に含まれているとされているが、社会福祉士及び介護福祉士法の改正によって、介護福祉士などの介護職が行うことが認められた。

 社会福祉士及び介護福祉士法には、喀痰吸引等を行うことができる旨が明記されている

 社会福祉士及び介護福祉士法の法改正により、2015(平成27)年4月から介護福祉士の定義に「喀痰吸引その他のそのものが日常生活を営むのに必要な行為であつて、医師の指示の下に行われるもの(厚生労働省令で定めるものに限る。以下「喀痰吸引等」という。)が挿入された。

 介護職が医療的ケアを実施する場合は、医療の倫理を理解する必要がある

 一定の要件を満たした介護職が実施できる、喀痰吸引などの医療的ケアは「医行為」であるとされている。そのため、介護職が医療的ケアを実施する際には、医療は、生命の尊厳個人の尊厳の保持を旨とし、医療を受ける者の心身の状況に応じて行うよう努めるなど、医療の倫理を理解することが必要である。

 喀痰吸引時は、吸引の操作を適切に行うだけでなく、感染防止を徹底する

 喀痰吸引時は、吸引の操作を適切に行うだけでなく、感染防止を徹底しなければならない。吸引時には、プラスティック手袋を着用することや、吸引は無菌操作で行うことなどが必要となる。
 また、気管切開をしている者については、室内が乾燥すると、切開部に細菌や埃が付着しやすくなるので、こまめな
湿度調整が必要となる。

 要件を満たした介護福祉士は、喀痰吸引経管栄養を行うことができる

 喀痰吸引や経管栄養は、現在も「原則として医行為」であると示されているが、法改正によって、一定の要件を満たした介護福祉士は、医師の指示の下、業として実施することが可能となった。介護福祉士が実施可能となった医行為の範囲には、次の①~⑤がある。

  ①口腔内の喀痰吸引
  ②鼻腔内の喀痰吸引
  ③気管カニューレ内部の買う痰吸引
  ④胃ろうや腸ろうによる経管栄養
  ⑤経鼻経管栄養

 介護福祉士が行う経管栄養は、胃ろうや腸ろうの状態に問題がないことを要件とする

 介護福祉士が行う医療的ケアでは、口腔内や鼻腔内の喀痰吸引は、咽頭の手前までを限度とすることとし、さらに、胃ろうや腸ろうによる経管栄養の場合には、胃ろうや腸ろうの状態に問題がないこと、経鼻経管栄養の場合には、栄養チューブが胃の内部に正確に挿入されていることを医師または看護職員が確認していることといった要件がある。

 喀痰吸引や経管栄養は、医行為の範囲に含まれていない。

×
 喀痰吸引や経管栄養も、原則として医行為の範囲に含まれている。

 介護福祉士が行う口腔内の喀痰吸引は、咽頭の奥まで実施することができる。

×
 介護福祉士が行う口腔内の喀痰吸引は、咽頭の手前までを限度とする。


安全な療養生活と健康状態の把握

 医療的ケアを行う際は、命を守ることを最優先にしなければならない

 喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアを実施するにあたっては、
を守ることを最優先にする、
②介護職が実施できる
範囲役割を正確に理解している、
③利用者が
安心できる正確なケアを実施する、
④正確に
報告する、という4点を守る。

 医療的ケアの安全な実施に向けては、リスクマネジメントを徹底する

 リスクマネジメントとは、危機管理と訳されるものであり、予測できる問題の発生の予防や発生した問題に対応する体制整備などによって、問題(危機)を回避または軽減することをいう。
 リスクマネジメントでは、あらかじめ
予防対策事故対策などを策定し、医療的ケア実施時に、確実に実行できるようにしなければならない。

 予防対策とは、自己を未然に防ぐための対処方法等をいいます。一方、事故対策とは、事故発生時の迅速かつ適切な対処方法等をいいます。

 リスクマネジメントの向上には、ヒヤリハットアクシデント報告の共有化を徹底する

 ヒヤリハットとは、事故寸前の危険な事例をさし、アクシデントとは、事故が起き利用者の心身に影響を及ぼした事例をさす。

 ヒヤリハットやアクシデントを起こす原因には、技術不足手順の間違いなどがある

 観察不足、技術不足、環境整備の不備、手順の間違い、職員間の連携不足などが原因となっている。

 スタンダードプリコーションは、医療・ケアを提供するすべての場所で適用される

 スタンダードプリコーション(標準感染予防策)は、医療やケアを提供するすべての場所で適用されるもので、すべての利用者に対し、感染症の有無にかかわらず、「血液、すべての体液、汗を除く分泌物、排泄物、のある皮膚や粘膜は感染性病原体を含む可能性がある」という原則に基づき、手指の衛生や防護具(マスク、ガウンなど)の着用等、感染リスクを減少させる予防策を示している。

 バイタルサインとは、一般に体温呼吸脈拍血圧をさす

 バイタルサインとは、一般的に体温呼吸脈拍血圧をさすが、意識状態を含める場合もある。
 医療的ケアの実施前後には、
バイタルサインを確認し、異常が見られた場合には、速やかに医療職に報告し、指示を仰ぐ。さらに、医療的ケア実施時も、利用者の表情、顔色、皮膚の色などを観察し、健康状態に異変が生じていないかを確認する。

 呼吸が適切に行われず、低酸素状態になると、口唇や爪床にチアノーゼがみられる

 呼吸による換気が不十分な場合、肺胞から血中に送られる酸素量が減少するため、低酸素状態となる。
 チアノーゼとは、口唇や爪床が紫色に変化する状態である。チアノーゼは、
観察によって把握することができるほか、パルスオキシメータ経皮的酸素飽和モニター)を活用することによっても、確認することができる。

 パルスオキシメータは、脈が検知されないと数値の信頼性が乏しくなる

 パルスオキシメータ―では、簡便に動脈の血中の酸素量(酸素飽和度)を測定することができるが、が検知されない場合には数値の信頼度は乏しくなる。
そのため、貧血、抹消循環不全、濃い
マニキュアを爪に塗っているなどの場合には、正確な数値を示さないことがある。

 対象者への実害がなかった場合は、ヒヤリハットに該当しない。

×
 対象者への実害がなかった場合であっても、何らかの影響を与えた可能性は否定できないため、ヒヤリハットに該当する。

 貧血がみられる場合、パルスオキシメータの数値の信頼性は乏しい。


 パルスオキシメータは、脈が検知されないと数値の信頼性が乏しくなる。


喀痰吸引の知識

 痰の貯留がみられると、空気の通り道が狭くなる

 痰の貯留とは、痰の量が増えたり、粘性が高かったりするために、分泌物をうまく呑み込めなくなり、気道、喉、口、鼻にたまる状態をいう。
 痰の
貯留がみられると、空気の通り道が狭くなるため、呼吸時に、ゴロゴロ、ズルズル、ゼロゼロといった音が聞こえるようになる。

 喀痰吸引で痰を吸い出すことで、低酸素状態や誤嚥などにつながることを防ぐ

 痰の貯留がみられると、適切な呼吸ができず、低酸素状態、誤嚥、窒息などを生じるリスクも高まる。そのため、喀痰吸引によって痰を吸い出すことによって、低酸素状態、誤嚥、窒息などにつながることを防ぐ。

 喀痰吸引では、吸引した痰の性状も確認しなければならない

 喀痰吸引を実施する場合、利用者の全身状態の観察やバイタルサインを確認するだけでなく、吸引した痰の性状も確認しなければならない。
 感染症に罹患したり、体内で出血がみられたりした場合には、痰の色、粘性、臭いにも変化がみられる。これらに変化がみられた場合には、速やかに
医療職に報告する。

 粘性が低いサラサラした性状の痰の場合、体内水分量が不足していると判断できる。

×
 体内水分量が不足していると判断できるのは、粘性が高いベトベトした性状の痰である。


人工呼吸器療法

 人工呼吸器は、圧力をかけて酸素を肺に送り込む医療機器である

 人工呼吸器は、圧力をかけて酸素に送り込む医療機器であり、人工呼吸器本体に、加温加湿器やウォータートラップなどの付属品を適切に接続して使用する。
 人工呼吸器を使用して呼吸の維持・改善を図る人工呼吸療法には、専用のマスクを着用して行う
非侵襲的人工呼吸療法や、気管切開によって行う侵襲的人工呼吸療法がある。

 人工呼吸療法の対象には、神経難病の者などが含まれる

 人工呼吸療法の主な対象には、神経難病の者や長期の意識障害を持つ者などが含まれる。非侵襲的人工呼吸療法を実施している者に対し、喀痰吸引を行う場合は、専用マスクを一時的に外すことによって、空気の通り道が確保されない状態になるため、迅速かつ適切な対応が求められる。

 異常時に速やかに対応が行えるように、人工呼吸器のアラームは必ずセットしておく

 異常時に速やかに対応が行えるように、人工呼吸器のアラームは必ずセットしておく。また、状態の急変や機器の故障などの緊急時に速やかに対応できるよう、主治医や呼吸器提供業者への連絡体制を整備しておく。

 在宅で人工呼吸療法を行っている場合は、停電時に備えた電源を確保しておく

 地震災害等により長時間の停電が生じた場合であっても自宅で療養を続けるためには、次のような準備が必要である。
①人工呼吸器の
非常用電源(外部バッテリー等)が確保されている
②家族が非常時のケアの方法を習熟している
③薬品、医療材料、消耗品、食料等を
備蓄している
④医療機関、人工呼吸器取扱事業者などと
非常時にも連絡がとれる

 気管カニューレ内部の吸引は、気管切開を行って気管カニューレを装着した者に対して行う。


 気管の深い部分には迷走神経がああるので、吸引チューブが気管カニューレの先端を超えないようにする。


喀痰吸引の方法

 喀痰吸引の種類には、口腔内吸引鼻腔内吸引気管カニューレ内部の吸引がある

 喀痰吸引は、基本的に吸引機につないだ吸引チューブを口や鼻から挿入して痰を吸い出す。喀痰吸引の種類には、口腔内吸引、鼻腔内吸引、気管カニューレ内部の吸引がある。
 なお、気管カニューレの先端よりも深い部分の期間には
迷走神経があるため、気管カニューレの先端を超えないようにする。

 喀痰吸引の実施準備では、指示の確認物品・機材の確認などを行う

 喀痰吸引の実施準備として必要な対応には、主に指示の確認、手洗い、物品、機材の確認、物品・機材の配置がある。

 カテーテルを挿入する長さは、口腔内は10~12cm鼻腔内は15~20cm程度を目安とする

 カテーテルを挿入する長さの目安は、口腔内10~12cm、鼻腔内15~20cm程度とされている。ただし、人それぞれに異なるので、適切な長さの目安の確認をする。
 また、1回の吸引時間は
10~15秒以内を目安とし、呼吸の様子、顔色、唇の色などを観察しながら行う。異変があった場合は直ちに中止する。

 吸引チューブを再利用する方法には、浸漬法乾燥法がある

 浸漬法とは、消毒液が入った保管容器に吸引チューブを浸して保管する方法であり、使用時には、吸引チューブに付着した消毒剤を清浄綿などで拭き取る。
 一方、
乾燥法は、吸引チューブを乾燥させて保管容器に保管する方法である。

 分泌物等の貯留物を吸引する際は、決められた深さを超えないようにする

 喀痰吸引では、吸引チューブを静かに挿入し、決められた深さを超えて、出血させないように注意しなければならない。
 そのほか、決められた
吸引圧を守ることや、吸引チューブは1箇所に留めておかず、回したり、ズラしたりすること、決められた吸引時間を遵守することなども念頭に入れて実施する。

 喀痰吸引実施後は、報告片付けと物品管理記録の作成を行う

 喀痰吸引実施後は、必ず看護職等に対し、吸引中や吸引後の利用者の健康状態、吸引物の量や性状、異常の有無などを報告する。
 そして、吸引瓶の
排液量が7~8割になる前に排液を捨てるなど、使用物品を片付け、必要に応じて使用物品の補充や交換を行う。利用者に対する喀痰吸引の状況などについての記録を作成する。

 喀痰吸引や経管栄養は、医行為の範囲に含まれていない。

×
 喀痰吸引や経管栄養も、原則として医行為の範囲に含まれている。

 介護福祉士が行う口腔内の喀痰吸引は、咽頭の奥まで実施することができる。

×
 介護福祉士が行う口腔内の喀痰吸引は、咽頭の手前までを限度とする。


経管栄養の方法

 経管栄養の実施準備では、指示の確認物品・機材の確認などを行う

 経管栄養の実施準備として必要な対応には、主に指示の確認、手洗い、物品・機材の確認、物品・機材の配置がある。

 イルリガートルは、注入部位よりも50cm程度高い位置に吊るす

 チューブの接続では、栄養チューブの挿入口の状態を確認し、適切な体位をとるなどの環境を整備する。
 イルリガートルは、注入部位よりも
50cm程度高い位置に吊るすことが基本である。ここでは、栄養点滴チューブの先端と栄養チューブがはずれたり、接続口から栄養剤が漏れたりしないように、しっかりと接続する必要がある。

 経管栄養の注入速度が原因で下痢を生じた場合は、通常、注入速度を遅くする

 胃ろうからの経管栄養を受けている者が下痢になった場合には、その原因に応じて経管栄養の温度注入速度注入量を調節する。
 注入速度が原因で下痢を生じた場合は、通常、注入速度を遅くする。また、胃食道逆流や下痢の予防として、経管栄養終了後1時間程度まではファーラー位を保持することなどもある。

 経管栄養実施後は、報告片付けと物品管理記録の作成を行う

 経管栄養実施後は、必ず看護職に対し、利用者の健康状態などを報告する。また、ヒヤリハット・アクシデントを生じた場合もその旨を必ず報告する。
 その後、使用物品を片付ける。その際、使用物品は洗浄と乾燥を十分に行い、
細菌の繁殖を防ぐことが大切である。そして、利用者に対する経管栄養の状況などについての記録を作成する。

 胃ろうからの経管栄養食の投与の際は、胃食道逆流のおそれがある

 胃ろうからの経管栄養食の投与は、胃食道逆流のおそれがあり、誤嚥性肺炎を生じる要因にもなる。そのため、姿勢を整えてから開始する。
 また、経管栄養が終わってからすぐに
口腔ケアを行うと、その刺激によって、嘔吐や嘔吐物の誤嚥をする恐れがあるので注意する。

 胃ろうを造設している利用者に対しては、カテーテルの自然抜去などに注意する

 胃ろうを造設している場合、カテーテルの自然抜去自己抜去脱落といった事故に注意しなければならない。
 カテーテルが抜去し、時間がたってしまうと、ろう孔が閉鎖してしまうため、カテーテルの抜去を発見した場合には、速やかに主治医などの医療職に
報告するなどの対応が必要となる。

 経管栄養の注入速度が原因で下痢を生じた際は、注入速度を速くする。

×
 経管栄養の注入速度が原因で下痢を生じた場合は、通常、注入速度を遅くする。


応急手当と緊急時対応

 骨折の疑いがある部位は、動かさないようにしっかりと固定する

 利用者が転倒や転落などによって、手や足などに骨折の疑いがある場合には、その部位を動かさないようにしっかりと固定する必要がある。
 また、骨折の疑いがある部位が腫れている場合には、その部分を冷やす。

 倒れている者を発見した場合は、大声で呼びかけて反応や呼吸の有無を確認する

 倒れている者を発見した場合には、肩を軽くたたきながら大声で呼びかけることによって反応呼吸の有無を確認する。その際、呼びかけて何らかの反応やしぐさがみられない場合には、「反応なし」と判断する。
 呼吸は、口元だけでなく、胸と腹部の動きを観察することで確認する。呼吸の確認に
10秒以上かけないようにする。

 心肺蘇生法(CPR)は、胸骨圧迫から開始し、絶え間なく行う

 心肺蘇生法(CPR)は、胸骨圧迫から開始する。

 人工呼吸ができる場合は、頭部後屈あご先挙上法により気道を確保する

 利用者に反応がなく、呼吸がないか、異常な呼吸(死線期呼吸)が認められる場合は心肺停止と判断し、心肺蘇生法(CPR)の必要があると判断する。
 人工呼吸ができる場合は、
頭部後屈あご先挙上法により気道を確保する。

 心肺蘇生法(CPR)は、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2で行う

 

 着衣の火傷は、衣類の上から冷水をかける

 衣類のまま火傷をした場合は、衣類脱がずにそのまま上から冷水流水)をかけ、疼痛が軽減するまで15~30分程度冷やし続ける。重症の場合や広範囲にわたる場合は、速やかに受診する。

 骨折の疑いがある場合には、その部位を正しい位置に動かしてから固定する。

×
 骨折の疑いがある場合には、その部位をしっかりと動かさないようにしっかりと固定する。

 衣類の上から火傷した場合は、よく冷やすため、衣類を脱がしてから冷水で冷やす。

×
 無理に衣類を脱がすと火傷部分の皮膚も一緒にはがれてしまう可能性があるため、衣類の上から冷やす。