令和4年4月1日に「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律」が施行されました。私はこの3年間に特例を利用した豚舎建築に3件ほどかかわらせていただきました。当初期待されたメリットに対して実際はどうだったかを振り返って皆様にも紹介したいと思います。

この3年間は飼料単価は高止まりしていますが、豚枝肉相場も高くなっていますので、利益を上げている経営も多いことと思います。実際に豚舎建築の案件も少なからず耳にします。しかしこの3年の間に豚舎の建築費は3割ほど値上がりしました。
畜舎特例法に一番期待されたのが、柱や梁の強度設計が3割ほど緩和されたことにより、使用する木材又は鉄骨の材料費が3割ほど安くなることでした。しかしそれが全然安くなりませんでした。理由はこうです。畜舎特例法では土木事務所の建築確認は不要ですが、耐荷重や建物強度は設計を担当した一級建築士の責任になっています。

するとほとんどの設計士さんは、自分で責任を負いたくないので、従来の基準で設計して構造計算をする専門会社に構造計算を外注します。ですから、従来の建築基準法に沿った構造設計になってしまうのです

図1

図2

実際のメリットとしては、豚舎と豚舎を通路で繋いで、合計の面積が3,000㎡未満なら、建物の間隔は狭くともOKになったことです。従来の建築基準では6m以上空ける必要がありました。図1は令和4年度の畜産クラスター施設整備で建てた母豚350頭規模繁殖豚舎のレイアウトです。敷地が狭かったので、豚舎間隔は4mです。従来の建築基準では母豚300頭規模の豚舎しか建てられませんでした。図2は令和6年度の畜産クラスター施設整備で建てた母豚180頭規一貫経営豚舎のレイアウトです。こちらも従来の建築基準では母豚150頭一貫豚舎しか建てられませんでした。
当初の設計では150頭一貫の計画でした。しかし私が費用対効果を計算したところ、どうしても投資効率が1.0を超えられず、クラスターの基準に合いませんでした。そこで母豚180頭一貫豚舎をぎりぎり敷地内に落とし込んで、投資効率を1.0以上にアップさせました。建築単価がアップしている昨今では、少しでも多くの豚を生産できる豚舎を作れることが最大のメリットであると思います。
もう一つのメリットは工期の短縮です。従来の建築確認申請では提出してから着工許可が下りるまでに2~3か月かかっていました。しかし、畜舎特例法になってからは、「畜舎利用計画書」を提出してから約1か月で着工許可が下りるようになりました。

また、工事が完成したときも、従来は県土木事務所の完成検査が有り(建築確認に基づいたもの)、その後に県の農政担当と市町村の完成検査がありました。ですから事業年度末3/31までに引き渡しを受けようとすると、3/10には工事が完了していなければなりませんでした。畜舎特例法になってからは、県と市町村の農政担当の完成検査を同時に行うだけで済みますので、最悪3/30工事完了。

3/31に農政の完成検査及び引き渡し。という日程も可能になりました。ただ、実態は3/31までに終わった事例はほとんど無く、いろんな理由をこじつけて「事故繰り越し」申請をして事業期間を延長していました。この繰り越し申請が厄介なもので、着工後に生じた不可抗力による遅延しか認められないのです。近年は工事規模が大きいので、最初から3/31までには終わらないことがわかっていながら始まるわけですから、繰り越しは必要不可欠でした。しかし今年度からは畜産クラスターの施設整備事業も複数年度にまたがる工期設定が最初から認められるようになりました。これで補助事業がやりやすくなります。

図3