豚舎のお悩み解決144『畜産クラスター事業利用の際の注意点』

ここ数年で豚舎の建築費が毎年1~2割ずつ上がったように思えます。その影響で、畜産クラスターの施設整備に申請を断念したという話も聞こえています。
糞尿処理を含めて農場を丸ごと新築すると、1母豚当たり300万円かかるのが当たり前になってしまいました。
だからこそ豚舎の新築に当たっては畜産クラスターによる補助を受けたいと願っている養豚家は多いことと思います。

しかし、今までネックだったことは、規模拡大要件と単年度で工事をしなければならないという工期の問題でした。それがやっと令和7年度事業(令和6年度補正予算)からこの二つの要件が緩和されました。

まず最初に規模要件ですが、今までは成果目標の中に「販売額の増加」や「飼養頭羽数の増加」がありました。そして「地域の平均頭羽数以上に拡大すること」が求められていました。これが令和6年度補正以降には「単位頭羽数あたりの販売額の増」に変更されました。つまり、養豚の場合、1母豚当たりの出荷頭数が増えることによる、1母豚当たり販売額が増えればOKということになります。

また、発育成績が上がったことにより、肥育豚飼養頭数は変わらずに年間出荷頭数が増える事でもOKです。ただし、クラスター計画の総合評価基準の(2)、①、イ)取組の規模 項目に『地域や構成員の実態に照らして実現の見込みがない程に過大な目標になっていないか、逆に、局所的、一時的な過小な取り組みとなっていないか。』という記述があります。ですから、規模の縮小は認められないでしょう。

次に工期の方は最大2か年にわたる計画の承認が受けられることになったことです。(Q&A集のⅠ概要 問2)畜産クラスター補助事業は補助金交付決定の内示が出た後でなければ入札及び着工ができません。たいていの場合はそれが8月か9月になります。すると9月か10月の着工で翌年3月までの半年の工期となり、到底期限内には完成できなかったわけです。繰り越すには「事故繰り越し」と言って着工後に発生した不可抗力による理由しか認められなかったのです。 
今までは、この理由を探すために、みんなが大変な苦労をしてきました。これが2年度にまたがった工事計画を最初から認められることになったのは大きいです。

ただし、「予算執行は単年度ごとに行います」(Q&A集のⅠ概要 問3)とあります。つまり、「令和6年度補正予算は令和7年度末まで、令和7年度補正予算は令和8年度まで」となります。ですから計画段階で最初の年度予算で何の工事をして、次年度予算で何の工事をするかを入念に計画することが求められると思います。今年度から変更になったことですので、この辺の運用が柔軟に行われるのか、厳しく切られるのかは、はっきり言ってまだわかりません。
例えば複数の豚舎と糞尿処理施設の総工費が10億円だったとして、1年5億円ずつの予算を取って、各年度内の出来高払いで良いのか、あるいは、1年目はA豚舎とB豚舎。
次年度はC豚舎とD豚舎と糞尿処理施設。というような計画を組んで、それぞれに計画通りの年度内完了する必要があるのか。おそらく後者でしょう。前者のような運用ができれば農場サイドも工事業者も楽なのですが。 

表1:建築上限単価

表2:畜産クラスター施設整備事業スケジュール

表3:関係法令の確認

表4:畜産クラスター事業ヒアリング提出資料チェックリスト

そのほかに変更になった点は、補助の上限単価が引き上げられたことです。
これは建築資材等の値上がりを考慮して改定されたものです。主なところでは表1の通りです。豚舎の付帯設備とは、豚柵、スノコ、換気設備、電気設備、給排水設備、給餌設備、徐糞設備などです。これらを除く建築主体部分だけに上限単価がありますが、付帯設備の価格上限はありません。

補助金額は建築主体部分が工事費の1/2または上限単価×建物面積×1/2のどちらか金額の少ないほうになります。付帯設備の補助額は工事費の1/2になります。堆肥舎の付帯設備は送風ブロワーや脱臭装置などです。尿処理施設の付帯設備は、脱水機、ブロワー、曝気装置、ポンプ、配管、電気設備などです。
縦型コンポは全額付帯設備扱いなので上限はありません。横型コンポの場合は建屋が堆肥舎と同じ扱いで、撹拌機や糞散布装置、ブロワー、脱臭装置が付帯設備扱いとなります。

最後に申請に必要な手続きや申請書類等を説明します。事業の大雑把なスケジュールを表2に示しました。表3は土地に関係する法律の一覧です。この確認や必要な手続きは事業を実施(着工)予定年度の前年3月までに終わらせておかなければなりません。
加えて地域住民への説明会を行って、同意書を取り付けておく必要があります。土地と地元同意が無いと、意向調査(仮申請)にさえ応募できません。意向調査段階では予算は概算見積でOK。設計図は平面図と配置図くらいでOKです。
また、近年はコンプライアンス遵守が重要視されていますので、飼養衛生管理基準や環境公害対策を前もって行っていないと評価が低くなってしまいます。結果として事業が採択される確率が下がりますので注意が必要です。

表5は農水省ホームページから引用させていただきました。なお、詳細は農水省のホームページ「畜産クラスター関連事業要綱・要領 令和6年度補正予算」
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/tikusan_sogo/l_cluster_27_kura.html
を参照してください。農水省ホームからは下記のようにたどってください。
ホーム → 畜産 → 畜産クラスター関係 → 畜産クラスター関連事業要綱・要領 

表5:クロスコンプライアンスチェック表