豚舎のお悩み解決145『豚舎の火災予防対策』

最近、豚舎火災で死者が出る事故がありました。近年、農場が大規模化するにつれて豚舎火災も大規模化する傾向にあります。豚舎火災は1年を通して発生していますが、特に暖房機器を多く使う冬場に多く発生しています。

 まず、図表1は消防庁が発表している統計です。これは豚舎だけではなく、鶏舎や牛舎も含まれています。最も多いのが電気関係です。配線が原因となっているものの多くはネズミにかじられたり、配線の劣化による漏電が原因と思われます。図表2は私がネットニュースから拾った豚舎火災の事例と疑わしい出火原因をまとめたものです。これを見ると分娩舎の暖房器具が原因と疑われる事例が多いです。暖房にはガスブルーダーやコルツヒーター、床暖房などがありますが、なかなか原因が特定できた事例は少ないようです。

そこで今月号では、火災予防対策を3つの観点から紹介します。

図表1

 まず1番目は電気器具の注意点です。コルツヒーターの電線は子豚にかじられないように吊り下げ棒などへ掛けて、洗濯ばさみ等で止めておきましょう。ただし電線を密着させてまとめてはいけません。電線からも発熱しますので、電線をまとめると放熱ができなくて被覆が溶けて電線がショートする危険があります。また、差し込みプラグやコンセントが錆びてしまうとそこからも発熱します。プラグが錆びたら、市販の錆び取り剤を使って錆を除去してください。また、コンセントは使用しないときは蓋を閉めておくか、蓋が無いものはガムテープを張っておくとよいです。
 次に高圧洗浄器です。先月の鳥取県の火災では温水高圧洗浄機が疑われていますが、私が予想する原因は3つ。1つは、排気口(煙突)の近くに燃えやすいものはなかったか。例えば母豚カードを吊り下げていた、蜘蛛の巣が多かった、洗浄機本体のプラスチックのカバーがずれていて排気の熱で燃えた、などです。2つ目は洗浄機を保管中にネズミが中に入って電線をかじった為に漏電や接触不良による火花が原因となった。保管の際はネズミが入らないように金属の箱、又は金属の網をかぶせておくことをお勧めします。3つ目の原因は洗浄機内部のマグネットスイッチの劣化による接触不良です。これは私も経験があります。養豚場では三相200Vタイプが多く使われていますが、三本線のうち1本が接触不良を起こすとモーターが回らなくなります。モーターは「ウ~」とうなり音を出します。この状態を放置するとモーターが焼けて発火する恐れがあります。このような現象に遭遇したらすぐに電源スイッチを切って修理に出してください。

図表3

図表2

また、電気系統が原因の火災で多いのが漏電です。漏電を検知できるように、配電盤には漏電ブレーカーが付いているかどうかを確認してください。

漏電が起きた時に、どの系統で漏電が起きているのかの確認も難しい場合があります。

また、メインのブレーカーが漏電ブレーカーの場合は、全体が停電してしまって作業上困ることがあります。それは図表3に示したように、主幹(メイン)ブレーカーを漏電検出無しのサーキットブレーカーにして、子ブレーカーを全て漏電ブレーカーに交換すると改善できます。

このようにすれば、漏電が発生した系統の子ブレーカーだけが落ちて、メインブレーカーは落ちませんので、正常な他の電気設備に影響がありません。

写真4は最新の豚舎建築で設置された配電盤の例です。ここでは後者の説明の通り子ブレーカーがすべて漏電ブレーカーになっています

写真4

2つ目の大きな原因としてはガス暖房器具、(ブルーダーやガス温風ヒーター)です。子豚の保温箱をガスブルーダーで暖房している場合は、保温箱に蓋をしてはいけません。金属などの不燃性の蓋なら良いでしょうが、外国人実習生などが間違って木や紙袋などで蓋をしてしまうなどの間違いが起きないように、「蓋をしない」という決まりにするのが良いです。

可動性の吊り下げ金具を使っている農場では、ブルーダーが豚房の仕切りパネルの上に行かないように、チェーンなどで水平位置も固定してください。ガス温風ヒーターでは、温風出口近くに燃えやすいものが無いかどうかをチェックしましょう。

私は、電線がぶら下がっている現場を見たことがあり、注意を促した経験があります。温風ヒーターに溜まった埃が何かの振動でバーナー部に入って火の粉が噴き出すことがあります。子豚を部屋から出して洗浄するときには温風ヒーターの埃も清掃してください。
3つ目の大きな原因は、溶接や金属切断機から出る火花です。

特に溶接から出る火玉は200℃以上になっていますから、コンパネなどが焼けて火災になるのです。厄介なのはすぐには発火せず、だんだん焦げて時間が経ってから発火することです。

溶接作業の後、昼休みで現場を離れていた隙に火災になった事例もありました。溶接作業や高速カッター作業は木材や紙、プラスチックなど、燃えやすいものが近くに無いところで行ってください。